深層学習はなぜ注目されている?技術の概要や仕組み、実際の活用方法を紹介

深層学習はなぜ注目されている?技術の概要や仕組み、実際の活用方法を紹介

近年、「深層学習」という単語が、新聞やTV番組などで取り上げられる機会が増えています。

深層学習はディープランニングとも呼ばれており、人工知能(AI)の開発やトレンドの自動運転などを実現するために不可欠な方法として、すでに様々なビジネスシーンで活用されています。トレンドワードとして目にする機会が多い一方、深層学習とはどのような技術なのか、端的に答えられる方は多くないと思います。

そこで本コラムでは、深層学習の概要説明からはじまり、その仕組みや実際の活用方法、将来性などについて、詳しく解説します。

深層学習とはどのような技術か?

深層学習が注目される背景には、人工知能開発に不可欠であることがあげられます。深層学習を用いて学習を行った人工知能と、その他の学習方法を用いた人工知能ではパフォーマンスに大きな違いが発生します。深層学習の理論は1980年代に提唱されるなど歴史がありますが、2021年現在において注目を集めている背景には、以下が考えられます。

・データ量の増加

一つ目の背景として、データ量の増加があげられます。なぜなら、深層学習を行うためには膨大なデータが必要であり、収集するデータ量によって、人工知能の精度は大きく左右されるからです。深層学習の理論が登場した1980年代と比べ、インターネットが広く普及した現代では、深層学習に必要な膨大なデータは圧倒的に入手しやすくなっています。

・コンピュータの処理能力の向上

二つ目の背景として、コンピュータの処理能力の向上があげられます。コンピュータ技術の進化は、深層学習の効率化と精度の向上をもたらしています。また、最近ではクラウド技術を併用することで、短時間での画像や音声、テキストなどのデータ処理が可能となり、深層学習の発展を支えています。

◇人工知能や機械学習との違い

深層学習は人工知能や機械学習とよく混同されるため、その違いをご紹介します。

・深層学習と「人工知能」の違い

人工知能とは人間と同様の知能を実現させる取り組みであり、 「大量のデータに対して、高度な推論を的確に行うことを目指したもの」と一般的に定義されています。その点、機械学習や深層学習は、広義な意味を持つ「人工知能の一部」であり、人工知能を実現するためのシステムや学習手法であると捉えることができます。

・深層学習と「機械学習」の違い

機械学習とはデータ分析手法の一つであり、その大きな特徴として、人間がコンピュータにデータの定義と付与を行った上で、コンピュータに判断を反復させ、データの特徴を学ばせることで規則性や関係性を把握できる点にあります。

一方、深層学習では、人間が定義していた箇所をすべてコンピュータの判断に委ね、データから自動的に分析対象を判断するためのポイント(特徴量)を抽出できる点において、大きな違いがあります。特徴量を「人間が手動で入力するか(機械学習)/機械に自動で学習させ精度を向上させるか(深層学習)」で判断すると、両者の区別がつきやすいでしょう。

深層学習の仕組み

次に深層学習の仕組みについて、端的に解説します。

◇深層学習と「ニューラルネットワーク」

深層学習のベースには、ニューラルネットワークがあります。ニューラルネットワークは人間の脳のニューロン(神経細胞)の仕組みを、プログラム上で模した数理モデルであるといわれています。ニューラルネットワークを用いてデータの自動分類・識別に必要なデータのパターン学習を継続して行うのが深層学習です。

◇深層学習と「ディープニューラルネットワーク」

近年、コンピュータの処理能力の向上などにより、ニューラルネットワークの層を増やしたモデル「ディープニューラルネットワーク(DNN)」の構築が可能となりました。より人間の神経回路に近いデータ接続を行うことができる点が、DNNの大きな特徴です。DNNの誕生によって、少ないデータからより多くの特徴を認識できるようになり、機械学習の精度は飛躍的に向上、その後の深層学習の発展をもたらしました。

代表的な手法

深層学習モデルの作成には、以下3つの手法が良く用いられています。

◇新規学習

深層学習モデルを新たに作成するためには、ラベル付けされた膨大なデータを収集した上で、特徴量を学習し、モデル化に必要なネットワークをゼロから設計しなければなりません。深層学習モデルの新規作成は、膨大なデータと数日から数週間程度の学習時間が必要になるため、手法の使用頻度としては低い傾向にあります。

◇転移学習

使用頻度の多い学習手法として、転移学習があります。転移学習とは、ある領域で学習したモデルを別の領域に活用し、効率的に学習させる手法を指します。人間に置き換えた場合、「同僚から参加できなかった講座内容がまとまったノートを後日見せてもらい、効率的な学習を図る」といったイメージに近いです。

転移学習のメリットは、新規学習と比較し、モデル化に必要なデータ数を大量に用意する必要がなく、学習時間の短縮化を図れる点にあります。一例として、転移学習を用いることで、「動物に関する学習済みモデルを活用し、車の画像から車種を簡単に識別できるモデルを短時間で作成する」といったことが可能になります。

◇特徴量抽出

深層学習における専門的な手法として、「特徴量抽出」があります。

特徴量とは一般的に、「人間が世界を認識するためのファクターである」といわれています。例えば、材質や形、色合いが異なる複数の椅子を目にした場合、私たち人間は「これらは椅子である」と一括りにして判断することができます。これは椅子の特徴量を、無意識のうちに認識しているからに他なりません。

元来、特徴量の抽出は、データ分析の技術者などが多くの時間をかけて担ってきた専門的な業務でしたが、深層学習を用いた特徴量の自動抽出が可能になったことで、人工知能の能力向上と実用化の加速が期待されています。

活用方法について

深層学習は現在、幅広い領域で活用されています。 以下が主な活用方法です。

◇画像認識

深層学習による画像認識では、人間の眼の機能を人口知能に応用した画像処理技術が用いられています。なお、深層学習による画像認識でできることは、「物体認識」、「顔認識」、「文字認識」の3つであるといわれています。

・ 物体認識

対象の画像に映る物体が存在するかしないか、また識別した物体がどのようなカテゴリーに含まれるかを認識する技術です。

・ 顔認識

対象の画像に映る人間の顔を識別し、個人を特定する技術です。近年では、画像から感情を読み取る技術も開発されています。

・文字認識

対象の画像に映る手書き文字や印刷文字を識別できる技術です。文字認識機能を活用し、大量のデータ入力業務の自動化が図れるなど、大きな工数削減が期待できます。

◇自動翻訳

深層学習の活用は、自動翻訳の領域においても、劇的な革新をもたらしています。従来の統計翻訳では、単語パーツごとに訳語を見つけて翻訳するといったアプローチ手法が用いられていましたが、それを発展させたのが、前段でご紹介したニューラルネットワークの活用です。

従来の統計翻訳では、同じ言葉で複数の意味を持つ多義語を用いた文章について、前後の文章で意味を判断するのが苦手とされてきました。一例として「Guts」という勇気と内臓という二つの意味を持つ英単語を用いた文章をご紹介しましょう。

「Have you got the guts?」という英文では、「あなたは勇気がありますか」と「あなたは内臓を持っていますか?」という2パターンの翻訳が可能です。文章内容として前者が基本的な意味として考えられますが、従来の統計翻訳では、文脈を読むことが苦手なため、後者を選択し誤った翻訳をしてしまうケースが発生していたのです。

ニューラルネットワークを導入以降、二通りの意味を持つ言葉が入る文章においても、最適な言葉で翻訳することが可能となったことで、自動翻訳は目覚ましい進化を遂げています。

◇自動運転

TVやインターネット、新聞などでトレンドワードとして紹介されることが多い自動運転技術についても、深層学習が活用されています。特徴的な事例として、これまで人間が担ってきた歩行者や対向車、信号、道路標識などの検知・識別を人口知能に委ねることで、交通事故の減少や渋滞緩和が期待できます。

◇AI家電

現在、家電への深層学習を用いた人工知能の応用も進んでいます。人の音声に反応し、言葉を理解し、命令通り操作できるAI家電が市場でリリースされていることは周知の通りです。AI家電の特筆すべき特徴として、ユーザーが日々の生活で無意識に取った行動を収集、学習し、その後最適な行動やコンテンツをAI家電自らが選択できる点にあります。

ユーザーの好きな曲をAIが学習し、プレイリストを自動作成の上、曲を流すといった機能は、すでに私たちの生活に馴染みのあるものであり、「家電×深層学習」の活用の幅は年々広がりを見せています。

将来性と課題

以下に深層学習の将来性と課題について、解説します。

◇将来性

深層学習の活用により、人間では不可能であった膨大なデータの収集・解析ができるようになり、より精度の高い多角的なアプローチが可能になりました。深層学習の応用例は幅広く、多くのビジネスシーンや日常生活に活用されていることから、深層学習の将来性は高いといえるでしょう。

◇課題

深層学習の発展を阻害する主な課題として、以下の2つがあります。

・ブラックボックス問題

深層学習では、膨大なデータを自律的に学習し、自ら答えを導き出すため、「最適解に至ったプロセスが人間にはわからない」といった原理的な問題があるとされています。これが俗にいう、「ブラックボックス問題」です。

仮に、医療分野に深層学習を活用し、将来的にかかりやすい病気をAIが診断し、なんの説明もなしに手術の必要性が示された場合、私たち人間はAIの判断を信用し手術に踏み切ることは難しいと思います。

深層学習によりビッグデータの分析から最適な結果が導き出されたとしても、説明能力の欠如により、人間がその判断の遂行に躊躇いを生じてしまうケースは充分に起こり得るのです。

将来的に深層学習を活用する際は、「ブラックボックス問題」が影響しない分野であるか、事前に検討することも重要になってくるでしょう。

・技術進展の速さと専門技術者の不足

深層学習は日々研究が進んでおり、進展スピードが速いことも特徴です。企業が深層学習を活用できるITシステムを構築している間に、新しい深層学習の技術が開発され、せっかく導入した技術が過去のものになってしまうケースがあります。

対応策として、AIエンジニアやAIアナリストなど、深層学習に詳しいAI人材が社内にいれば、新しい技術を最適なタイミングで導入し続けることが可能です。しかし、AI人材は市場で圧倒的に不足しているのが現状です。経済産業省のレポート(※1)によると、AI人材の不足は2030年には12.4万人まで増加する試算があることからも、専門技術者の不足は、深層学習発展の大きな課題となっています。

【出展】

※1 「IT人材需給に関する調査(概要)」(経済産業省)

まとめ

ここまでお読みになり、深層学習の理解が深まったことで、「自社事業への深層学習の将来的な活用」に興味を抱いた方も多いと思います。ただし、前述の通り、深層学習の技術に知見のあるAI人材は不足しており、AI人材は今後、激しい争奪戦が見込まれています。

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執筆監修者

記事監修

野村 鉄平

2006年に株式会社インテリジェンス(パーソルキャリア株式会社)へに入社。 アルバイト領域の法人営業や新規求人広告サービスの立ち上げ、転職サービス「doda」の求人広告営業のゼネラルマネジャーを歴任。 2021年11月からIT・テクノロジー領域特化型エージェントサービス「HiPro Tech」に携わり、現在サービス責任者を務める。 「一人ひとりが求めるはたらき方や案件との出会いを増やし、キャリアをデザインできるインフラを提供する」ことを自らのミッションとして掲げ、サービス運営を行う。

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