多重下請け構造の問題とは?原因から脱却する手段までを解説
IT黎明期である1990年代、多くのSIerやベンダー、さらには大手企業のシステム開発を担うグループ企業が続々と誕生しました。この流れに併行して生み出された仕組みが多重下請け構造です。
しかし、現在多重下請け構造は社会的問題として提起されており、構造そのものにメスを入れていくことが社会の命題となりつつあります。
当コラムでは、改めて多重下請け構造の問題点、および企業側が多重下請け構造から脱却するために、どのように問題へ向き合っていくべきかについて解説していきます。
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多重下請け構造とは
◇多重下請け構造の概要
受注会社が発注会社から受託した業務の一部を、下請けの会社へ委託する構造を指します。下請け会社がさらに別の下請け会社へ委託するケースも多く、下請け会社が多層的に発生することからこのように呼ばれています。主にIT業界や建設業界に見られる構造です。
◇多重下請け構造での契約種別
IT業界の多重下請け構造は、請負契約、派遣契約、準委任契約等、様々な契約形態で契約が結ばれます。請負契約、派遣契約、準委任契約の違いを一部紹介します。
・請負契約
成果物に対して報酬が発生する。IT業界では、開発されたシステム一式を成果物とするケースが多く、その際受注側が開発の責任を担い開発プロジェクトを進行させる。
・派遣契約
働いた時間に対して報酬が発生する。派遣者への指揮命令権は、発注者側が持つ。プロジェクトの人員不足による労働力の補填などで活用される。
・準委任契約
業務の処理に対して報酬が発生する。こちらは、発注者側に受注者側への指揮命令権はない。
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多重下請け構造はなぜ起こる?続く理由
◇人員リソース余剰とコストロスの削減
多重下請け構造が根付く背景のひとつに、上流で受注した企業(下請けに発注する側)が開発時の人員配置のロスを削減する狙いがあります。ひとつのプロジェクトに充てる開発人員を自社従業員だけで賄おうと思うと、莫大なコストがかかるだけでなく、プロジェクト終了後雇った人員リソースにムダが出てしまうためです。必要な時だけ必要な人員を獲得し、人員コストのロスを削減できるメリットも、多重下請け構造を根付かせてしまった要因のひとつといえます。
◇担当業務の縦割り風土
もうひとつ、市場全体に発注者と受注者(下請け会社)のパワーバランスが根付いてしまっていることが挙げられます。そもそもの仕組みとして、受注者はなるべく利益を得られるよう、下請けへ発注する際に受注時よりも安い単価で下請けに委託することとなります。そのため、下請け構造の末端に行くほど損をしてしまっていることが実態です。多重下請け構造のパワーバランスから見ると、当然、多くの下請け企業がより上流工程で業務を引き受けたいと考えるのが常です。しかし、上流を引き受けられる企業はすでに一定の実績を出している企業が占めており、実績がないうちは単価が低くとも、下請けの業務を引き受けざるを得ません。
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多重下請け構造における問題点
◇品質責任の所在が分かりづらい
発注者が下請け会社との調整で、完成イメージの認識すり合わせや納品前後の合意形成が曖昧な時に起こりうる問題です。結果、発注者へ納品された際、万が一要望に沿う完成品ではなかった場合、どこでその問題が起きたかが判明しづらいという難点があります。一概に多重下請け構造ならではの問題とは言い難いものの、発注者と下請け会社の層が厚いほどプロセスが細分化されるため、こうしたリスクが相対的に起こりやすくなるといえます。また、受注者と発注者という構造上、パワーバランスとして下請け会社側が劣勢となりやすく、責任所在を押し付けられやすくなってしまうことも、付随する問題点として挙げられます。
◇業務負荷の増大と労働環境の悪化
極端なケースではありますが、途中階層の企業(下請けに発注する側)が自社の利益分のみを差し引いて、下請け会社へ業務をほとんど委託してしまう場合があります。利益が大幅に中抜きされた結果、下請け側はもとより安い報酬で多大な業務負荷を負わなければならず、長時間労働や休日出勤、酷いケースでは残業代未払い等の温床となってしまいます。末端層の企業に行くほど、この事象は起こりやすいといえます。
◇市場競争力の低下を招く多重下請け構造
上記の事象から言える問題点として、市場全体の競争力低下を招きうる点が挙げられます。この事象は主に上流と下流の待遇格差によって、下請け企業を中心にエンジニア市場全体に疲弊が生まれることが背景といえます。事実、経済産業省の発表したデータ(※)によると、発注者(元請企業)と受注者(下請会社)では、生産性に約1.7倍の差が生まれていることが判明しています。
こちらは2008年時点でのデータではあるものの、多重下請けの構造そのものが現市場でも大きく変動がないことを加味すると、今もなお生産性低下のネックとなる要因が残り続けていることは想像に難くありません。
そして、このまま多重下請け構造が市場全体で蔓延し続けた場合、生産性の低下から報酬・品質の低下を招かねず、就労環境の悪化からふたたび生産性の低下につながるといった、負のスパイラルに陥ってしまうと言えるのではないでしょうか。このスパイラルによる影響範囲は、一企業に留まりません。総じて、多重下請け構造は市場全体で課題としてとらえ、改善に着手すべき課題といえるのです。
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多重下請け構造からの脱却(内製化)によるメリット
上述の通り市場全体に根付いた多重下請け構造ですが、上述のデメリット回避の観点や、近年のコロナ禍に伴う時勢の変化に伴い、構造からの脱却の流れが加速し始めています。いわゆる「内製化」を促進する企業が増え始めている、ということです。
内製化を進めることで、たとえば以下のメリットを得ることができます。
・開発スピードの向上
要件定義から開発、納品まですべて自社内で完結するため、コミュニケーションの出戻りが発生しないだけでなく、完成品に対する修正要望に対してもスピーディに対応可能となります。
・開発品質の精密性向上
発注者と開発者、双方が直接意見と認識をすり合わせられるため、理想とするシステムの精度も必然と上がりやすくなります。
・自社へのナレッジ蓄積
外注に依頼した場合、開発した時の経験や得られた知見が社内に還元されにくくなってしまうデメリットがあります。自社内完結の場合、一連の開発に伴う課題や解決策をナレッジとして蓄積できるため、次回以降の開発時に役立てることができます。
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多重下請け構造の脱却・内製化を進めたい時は
多重下請け構造の脱却、および内製化を進めたいと考えたとき、ハードルとなりやすい要素が「高い技術力を持つ人材の確保」です。自社では賄えなかった開発をすべて自社で完結するためには、質・数ともに一定の技術を持つ人員を確保しなければなりません。この課題は、開発を任せる発注者、多重下請けを脱却したい受注者、双方につきまとうものといえます。
こうした課題に対して、解決のカギとなるのが「技術人員のシェアリング」という考え方です。企業だけでなく、個人側、すなわち現場で活躍するエンジニア側も、待遇改善を狙い多重下請け構造からの脱却を目指す人は多く、フリーランスエンジニアの母数は増加傾向にあるといえます。一定の経験・技術力を持ち合わせたフリーランスエンジニアであれば、無期雇用を行うよりもスピーディかつ着実に誘致でき、かつ即戦力としての活躍を期待できます。
なお、フリーランスITエンジニア専門エージェント「HiPro Tech」では、上流工程から下流工程まで、豊富な経験・スキルを持ち合わせたエンジニアが2500名以上活躍しています。要件定義からコンサルタント、急な欠員に伴う人員補填まで、ニーズに合わせて即座に優秀なエンジニアの力を借りることができます。少しでも興味がありましたら、まずはお気軽にお問合せください。