エンジニアの転職回数はなぜ多いといわれるのか?/転職されないための職場づくりとは

エンジニアの転職回数はなぜ多いといわれるのか?/転職されないための職場づくりとは

一般的に、エンジニアは他の職種と比べて、転職回数が多いといわれています。

しかし、職種別の転職回数をまとめた、パーソル総合研究所のレポート資料(*)によると、エンジニアの転職回数は1.5回と、その他、営業1.4回、バックオフィス1.6回、販売・サービス2.2回と比べても、平均的な数値であることが読み取れます。

エンジニアは転職が多いというイメージは、どこから生まれたのでしょうか。

どのような特徴を持つエンジニアが転職を繰り返し、また、エンジニアに長く働きたいと思ってもらえる職場は、いかにして作るべきなのでしょうか。

その問いについて、本コラムで詳しく解説します。

出典:「働く10,000人の就業・成長定点調査(株式会社パーソル総合研究所)」

 

エンジニアの転職回数の現状

◇転職回数

さきほど、エンジニアの平均転職回数は1.5回であると紹介しましたが、年代別の転職回数についても、気になるところだと思います。

以下は、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)のレポート内容の抜粋です。

【年代別転職回数】
20代…0回(75.5%)| 1回(15.7%)| 2回(4.9%)  | 3回以上(3.9%)
30代…0回(53.1%)| 1回(22.4%)| 2回(11.8%)| 3回以上(12.7%)
40代…0回(45.1%)| 1回(17.2%)| 2回(15.4%)| 3回以上(22.3%)
50代…0回(41.6%)| 1回(19.8%)| 2回(16.8%)| 3回以上(21.8%)

出典:「Copyright IT人材白書(2015)IPA」

年代を経るごとに、2回目、3回目と転職回数が大きく伸びていることから、20代でスキルと経験を積んだエンジニアは、何らかの理由を持って、30代以降に転職を重ねる傾向にある、ということが読み取れるでしょう。

◇エンジニアが転職をする理由

それでは、エンジニアはどのような理由で転職するケースが多いのでしょうか。

パーソルキャリア株式会社発表の「転職理由ランキング2019」上位1~8位の転職理由をベースに、エンジニアの主な転職理由を解説していきます。

ほかにやりたい仕事がある

AIやIoT、ビッグデータ、5Gなど、革新的な新技術の登場により、産業構造が変化し続けるIT業界において、エンジニアは、常に新しい技術・スキルの習得を求められています。同じIT言語や、似たようなプロジェクト経験をどれだけ積んでも、スキルの向上にはつながりません。

新しい環境で自己研鑽を積み、スキルアップできるプロジェクトに就きたいと望むのが、エンジニアの習性であり、転職理由のトップになった背景だといえるでしょう。

給与アップを実現したい

転職理由の「給与に不満がある(2位)」より、多くのエンジニアが、待遇の改善を求めて転職していることが読み取れます。

2021年3月公開、doda「平均年収ランキング」によると、エンジニアの平均年収は452万円であり、年代別平均年収は、20代(372万円)、30代(511万円)、40代(615万円)、50代以上(691万円)。

20代で実務経験が少ない場合、保守・運用業務からスタートする場合が多く、プロジェクトマネジメントといった上流工程に携わる機会が少ないことが、20代の平均年収が低い要因として考えられます。

在籍企業でスキルアップ=収入アップにつながる業務に携われないと、スキル不安だけなく、待遇面の不満も生まれ、エンジニアの転職を後押しする恐れがあることを、人事・採用担当者は念頭に入れておく必要があるでしょう。

スキル向上により、市場価値を高めたい

先述の通り、エンジニアは常に新しい技術・スキルの習得に積極的です。

「専門知識・技術を習得したい(3位)」
「市場価値を上げたい(6位)」
「幅広い経験・知識を積みたい(7位)」からも、 エンジニアは、
市場価値向上につながる自己成長を、重要視していることがわかります。

入社以降、希望のプロジェクトにつけず、 思い描く技術やスキルの習得が叶わない場合、 在籍企業に早々に見切りをつけ、転職活動をスタートさせることは、 多くのエンジニアにとって、自然な行動であるといえます

将来性のある企業がいい

「会社の将来性が不安(4位)」より、日進月歩で新しい技術・サービスが生まれるIT業界において、競争優位性のないプロジェクトしか用意できない企業は、エンジニアに将来への不安を抱かせます。また、「会社の評価方法に不満がある(8位)」より、日々の頑張りが報われない評価指針を採用していると、同じく将来性がないとエンジニアは判断する可能性があります。そうした場合長期就業は叶わないでしょう。

就業環境の改善を図りたい

IT業界の多重構造より、エンジニアは、突然の仕様変更が生じた際も、納期遵守を求められ、残業や休日出勤が発生するケースが多いといわれています。

「残業が多い/休日が少ない(5位)」より、就業環境の改善を図りたいとの理由で、転職するエンジニアも多いことが読み取れるでしょう。

転職を繰り返すエンジニアについて

冒頭でも述べましたが、エンジニアの転職回数は、他業界と比較して、平均的であるにも関わらず一般的に転職が多いというイメージを持たれています。その背景として考えられているのが、一部の「キャリアビルダー」と「ジョブホッパー」の存在です。

転職を繰り返すという点において、「キャリアビルダー」と「ジョブホッパー」は類似性がありますが、 志向性は、まるで異なります。どのような違いがあるのでしょうか。以下に、それぞれの特徴をご紹介します。

◇優秀な人材である

自らの手でキャリアを形成したいとの志向性を持つのが、「キャリアビルダー」の特徴です。

「キャリアビルダー」は、転職を重ねるごとに、スキル・キャリアアップを実現し、収入アップも同時に手にしています。優秀な人材であるが故に、どの企業でも歓迎されることから、ポジティブな理由で、転職を繰り返す傾向にあります。

転職回数が大きな強みになるのが、「キャリアビルダー」の特徴であるといえるでしょう。

◇理想を高く持ちすぎている

一方、転職回数が強みにならないのが、「ジョブホッパー」の特徴です。

なぜなら、「自分のやりたいプロジェクトはここにはない」など、退職理由が曖昧であり、明確なキャリアビジョンも持ち合わせていないため、いつまでも理想を追い求め、転職を繰り返す傾向があるからです。

◇成長意欲に欠ける

スキル・キャリアアップのための成長意欲に欠けるのも、「ジョブホッパー」の特徴の一つです。転職が成功しても、新しいスキル・キャリアを獲得できないため、給与や待遇アップを手にできない、という特徴もあります。

◇思い描いていた企業と現実に乖離がある

最後に、思ったような待遇ではない企業や、業務量が膨大な企業に入社してしまい、仕方なく転職を繰り返している「ジョブホッパー」も、レアケースでありますが、中にはいます。

しかし、そのようなエンジニアは、将来「キャリアビルダー」となる可能性も秘めているため、採用においては、見極めが肝心でしょう。

採用後に転職されないための職場づくりについて

採用後に転職されないための職場づくりについて

以下、5つの観点から考察します。

仕事にやりがいを感じさせる

前述の通り、エンジニアは、「市況に関係ない、市場価値の高いスキルを磨きたい」「SEとして、幅広いスキルを手にしたい」という転職理由が目立ちます。最新技術やトレンドのIT言語を用いた開発プロジェクトに参画できない場合、働くモチベーションの低下につながりかねません。仕事にやりがいを持てるプロジェクトアサイン体制の構築は、社員定着率の向上に寄与するでしょう。

タスク量の管理を怠らない

IT業界においてタスク量が増える要因としては、先述の「突発的な仕様変更」の他に、そもそも「設定されている納期・予算に無理がある」というケースも考えられます。

勤怠や業務管理システムなどを用いて、特定のエンジニアが長時間労働を行っていることが確認できた場合、膨大なタスク量を抱えている可能性があるので、必ず状況を確認しましょう。チーム内で作業を分担するなどし、長時間労働の防止に努めましょう。

メンタルのケアを大切にする

身体的なストレスだけでなく、精神的なストレス軽減を図る環境づくりも、欠かせないポイントです。業務のプレッシャーや職場の人間関係に悩まないよう、社員が相談しやすい相談窓口を設置するのも一つの手です。メンタルヘルス対策にも注力し、エンジニアが安心して働ける環境づくりに努めましょう。

キャリアパスを一緒に考える

明確なキャリアビジョンを持って入社したエンジニアでも、担当業務に追われる中で、「果たして、自分はキャリアアップできているのだろうか」と不安に感じることもあるでしょう。その場合、役職者との定期面談を通して、キャリアパスを一緒に考えていくことが効果的です。キャリアビジョンが明確になると将来への安心感が芽生え、早期離職の防止にも役立つはずです。

業務量に見合った報酬を支払う

2021年4月の転職求人倍率をまとめた「doda 転職求人倍率レポート(*)」によると、技術系(IT・通信)の職種別 転職求人倍率は8.34と、コロナ禍においても依然として高い数値を誇っています。

売り手市場のため、業務量に見合った報酬を支払えていない場合、前述の転職理由から、エンジニアに離職される危険性が高まります。エンジニアが納得できる給与体系の構築も、社員定着率の向上には欠かせません。

出典:「doda 転職求人倍率レポート」(パーソルキャリア株式会社)

まとめ

エンジニアの平均転職回数は1.5回と突出していないものの、一部エンジニアの中には、転職回数を繰り返す「キャリアビルダー」と「ジョブホッパー」がいることを、本コラムを通してお伝えしました。

また、優秀なIT人材が自社に留まってくれるよう職場づくりに励むことは大切ではありますが、成長意欲のある「キャリアビルダー」は、新しい技術やスキルを習得できる環境を他に見つければ、積極的に転職を繰り返す傾向にあるのが実態です。

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執筆監修者

記事監修

野村 鉄平

2006年に株式会社インテリジェンス(パーソルキャリア株式会社)へに入社。 アルバイト領域の法人営業や新規求人広告サービスの立ち上げ、転職サービス「doda」の求人広告営業のゼネラルマネジャーを歴任。 2021年11月からIT・テクノロジー領域特化型エージェントサービス「HiPro Tech」に携わり、現在サービス責任者を務める。 「一人ひとりが求めるはたらき方や案件との出会いを増やし、キャリアをデザインできるインフラを提供する」ことを自らのミッションとして掲げ、サービス運営を行う。

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